ドクター、アスリート、アーティスト御用達の黒山三滝の縁音織庵スタジオで受けることができるメンタルフィジカルトレーニングとボディメンテナンスを提供しているトレーナー松澤亜希子の公式サイトです。
メンタルフィジカルトレーナー松澤亜希子の公式サイト

こちらのサイトへお越しくださり有難うございます。
初めての方へ
松澤亜希子からの

メッセージはこちらから

レコメンダー(推薦文)

  • ハンガリーリスト音楽院 ピアノ科主任教授 カールマン・ドラフィ先生
  • 匿名希望 医師 W.Y先生

ピアニスト カールマン・ドラフィ教授

カールマン・ドラフィ先生のマスタークラスは、年2回開

医師 W・Y先生  推薦コラム  〜脱力のススメ〜

「ピアノを弾くときは腕の力を抜いて弾きましょう」 ピアノ演奏家なら、プロ・アマチュア問わず一度は受ける指導である。普段は家でリラックスして練習する。ピアノのレッスンを受けに行くときは、間違えないように弾こうとして、どうも肩や腕に力が入ってしまう。そして本番の発表会のときはさらに緊張して、人前で演奏するとカチカチになってしまい、視野が狭くなって、テンポが上がって、音も硬くなって、腕に力が入ってあまり良い音で弾けなかったなぁ、と思ってしまう。

腕ってなんだ?

 腕に力が入る。そもそも腕って体のどの部分だろうか? 腕が歩行のためではなく、自由に道具を使える腕(正確には上肢)として存在しているのは人類だけであり、進化の過程を逆上っていくと、ヒトの上肢は、四足歩行をする動物の前脚、そしてその前は魚類の胸ビレに行き着く。

化石などの研究によって、人間の遠い祖先は海で暮らしていたことが分かっている。その時はミミズのように単純な形をした細長い生物で、体を左右にくねらせて水中を泳いでいたようだ。その後の進化の過程で、私たちが見慣れた魚類が出てくる。外見上の大きな変化は、胴体の中央部分に大事な臓器を集めて太くなり、体にいくつかの「ヒレ」ができて、水中をより自由に泳げるようになったことである。ヒレは独自の骨と筋肉が存在しており、背骨からは独立して、前後左右に自由に動かすことができる。魚はこのヒレを使って、水中で停止したまま方向転換したり、時にはバックしたりもできるようになった。

自由に泳げるようになった魚はやがて活動の範囲を広げて行き、海から川に進出する。海水魚から淡水魚への進化である。そしてその次に進化の一大イベントが起こる。生活の範囲を広げるため、一部の魚が体を変化させて陸上に進出したのである。水中から陸上への移動はそれまでにない大きな環境の変化であり、それに対応するため体の様々な部分が進化した。

水中のえらに代わって空気中の酸素を取り込むために肺ができ、乾燥を防ぐために皮膚ができた。水中にはあった浮力を失い、陸上では重力に打ち勝つ必要が出てきた。このため全身の骨格が発達して丈夫になり、肋骨ができて肺を入れて呼吸を補助する空間(胸郭)ができた。そしてそれまで水をかくのに使っていたヒレはより強靭になり、重力に対して体を支える脚に進化した。このような進化の過程は、オタマジャクシが成長すると、ヒレが脚に生え変わって、陸上でピョンピョン跳ねるカエルになる姿から想像することができる。

 陸上に進出した生物はさらに、カエルのような両生類から、ネズミのような哺乳類に進化した。脳も大きく発達し、手や指を使って細かな動きができるようになった。リスのような愛らしい小動物は、前脚を使って上手に木の実を口に運ぶことができる。そしてサルからヒトへの進化の過程で、人類は後脚でバランスを取って立ち上がり、二足歩行をはじめた。そして歩行から開放された前脚は、より自由に動きさまざまな用途に使える腕(上肢)に進化したのである。今日私たちが自由に動く上肢を使えるのは、自由に動いていた魚類の胸ビレのおかげである。

ヒトの解剖と上肢

 進化の次は解剖の話である。素朴な疑問だが、体の造りで一体どこからが上肢なのだろうか。何となく分かっているつもりでも、自信を持って答えられる方は少ないのではないだろうか。

図の骨格に示すとおり、体の幹となる部分(体幹)の中心的な構造は上下に連なった背骨である。肋骨は背骨から左右に伸びる形でできており、背骨に固定されているので可動性はほとんどない。(実際はわずかに動いて、主に呼吸を助ける働きをする。)したがってこれも体幹に含める。それでは一体どの骨から上肢なのか? 意外なことに、その答えは鎖骨である。

 鎖骨は首の付け根のあたりにある左右に伸びる細い骨で、体表近くにあり、自分で触れることができる。一度鏡の前に立って自分の鎖骨を確認してみてほしい。あなたが上肢を大きく動かしたとき、鎖骨も一緒になって動いているのが分かるはずである。これがもし、肋骨のように体幹に固定された骨であったら、このように自由には動かない。鎖骨はとても重要な骨で、上肢はこの細い骨1本で体幹につながっている。もしあなたが転んで鎖骨を骨折したら上肢を自由に動かすことができなくなり、数週間かけて治るまで腕を吊って生活しなければならない。

 鎖骨の先は肩甲骨に繋がっている。肩甲骨は背中側にある平たく広がった骨で、全体に様々な筋肉が付着している。多くの人のイメージと異なり、肩甲骨は鎖骨以外の体幹の骨(背骨や肋骨など)とは繋がっておらず、胸郭(背骨と肋骨で構成された肺と心臓を入れる空間)の表面を滑るように移動することができる。「腕」というとよく、肩から先の部分(解剖学的には上腕と呼ばれる部分)をイメージしてしまうが、これは誤りである。すなわち、腕はほぼ体の中心に近い鎖骨から始まっており、肩甲骨を含めた肩は既に上肢なのである。

 多くの人が肩甲骨は体幹に固定されていて動かない骨だと思ってしまっている。思い込みとは怖いもので、そのように思い続けながら長い年月が経過すると、周囲の筋肉が硬くなり本当に動かなくなってしまう。肩甲骨周辺の筋肉のこわばりがいわゆる肩こりで、長時間のパソコン作業をなど、上肢を緊張させたまま動かさずにいるとひどくなる。肩周辺の筋膜(筋肉の表面を包む膜)は上方で頭頸部の筋膜にも繋がっているため、肩凝りがひどくなると首が痛くなったり頭痛が出てきたりする。

肩こりの弊害

 世の中には頑固な肩こりに悩んでいる人がいる。一方で、肩こりとは全く無縁、あるいは少なくとも自分ではそう思っている人もいる。その違いはどこにあるのだろうか? 結論を言うと、肩こりと無縁の人というのは存在しない。体から左右に出た上肢を筋肉で引っ張って支えている以上、筋肉が疲労しないことはありえないのである。

人間の脳は長時間同じ刺激が入り続けると、生死に直結しないものであればこれを無視するという特性がある。肩こりが常態化すると、他のもっと重要な感覚(例えば視覚や聴覚や痛覚など)を優先するため、肩がこっていることを忘れてしまうのである。パソコンなどで集中して作業をしているときは、あまり疲れを感じない。休憩したり作業が終わって一息ついたときに、どっと肩の疲れが出てくる。疲れはリラックスしたときでないと気づかない。自分では肩こりがないと思っている人でも、温泉で長時間温めて血行を良くしたり、マッサージを受けたりすれば気持ちが良いはずである。ということはやはり、普段は意識していないだけで、実際は肩はこっているのである。

 肩こりを感じないといったような、忘れてしまった体の感覚を呼び起こすのはかなり大変な作業である。まずは自分の体の感覚に意識を向けられるよう、十分にリラックスする必要がある。そして次に実際に硬くなっている筋肉や、それによって動かなくなった関節などを認識していくわけだが、これは本や講義などの座学ではなかなか学びづらい。ではどうすれば良いのだろうか? 答えは簡単で、知っている人に自分の体で教えてもらえば良い。具体的には、トレーナーの人に実際に硬くなっている筋肉をマッサージしてもらったり、ストレッチしてもらえばよいのである。一度この感覚に気づけば、あとは自分でストレッチやマッサージなりでほぐしていくことができる。筋肉が十分に緩むと、それと繋がっていた骨と関節もより自由に動くようになっていく。

 このようにして肩甲骨を自由に動かせるようになると、ピアノを弾く際に世界が大きく変わってくる。まず腕の上下の位置が自由に取れるようになり、今まで気になっていた椅子の高さがあまり気にならなくなる。本番の前にどうしても気なって椅子の高さを何度も直してしまう、あの心配から開放されるのである。さらに腕が左右に大きく開くようになり、高音や低音を弾いたときに体の軸がブレず、音を外しにくくなる。テクニック面のみならず、音質も変わってくる。最小限のムダのない小さな力で鍵盤を押すことができるようになり、柔らかなタッチできれいな音色を出せるようになるのである。

筋肉のこわばりと関節の可動性

 筋肉が硬くなるとどのようになるか、自分の体で体験してみてほしい。人間の肘関節は最も単純な動きをする関節で、曲げたり(屈曲)伸ばしたり(伸展)することができる。まずは自分の肘関節を、軽く曲げ伸ばしをしてみて欲しい。何の抵抗もなくスムーズに動くと思う。この際に、肘関節を屈曲させのに働く筋肉が上腕二頭筋である。いわゆる「力こぶ」を作るときの筋肉で、これも触って確認することができる。逆に肘関節を進展させる筋肉が、逆側についている上腕三頭筋である。反対の作用を持つので両者を拮抗筋という。上腕三頭筋は普段はあまり意識して使うことは少ないが、重いものを押したりする際などに、肘が曲がらないように働いている。

今度は腕を前に突き出してみてほしい。そして上腕二頭筋を意識しながら(力こぶを作る筋肉を意識しながら)、ゆっくりと肘関節を曲げみてほしい。何の抵抗もなく曲がるはずである。ではそこで、上腕二頭筋を使いながら、同時に反対側の上腕三頭筋に力を入れてみてほしい。すると途端に肘関節がロックがかかったようになり、スムーズに動かなくなってしまう。それでも動くように大きな力を入れると、ブレが大きくなり、とてもでないが細かな調整ができなくなる。

関節を動かす際は、筋肉を収縮させるのと同じぐらい、拮抗筋の力を抜くことが大切である。指を曲げて鍵盤を押す際は、指を曲げるのと同じぐらい、指を伸ばす筋肉の力を抜くことが大切なのである。これが十分にできるようになると、指にほとんど力を入れずに、まるで重力に従って軽く「落とす」ような感覚で弾くことができるようになる。余計な動きがなくなる分、ミスタッチが減って指が早く回るようになる。さらには鍵盤の重心を的確に捉えることができるなり、迷いのない濁らない、クリアーな音が出るようになるのである。

さて、また肘関節に話を戻そう。先程と同じように肘関節を曲げてみてほしい。そして同じように拮抗筋に力を入れて関節をロックして欲しい。そして今度は、この状態のまま手関節を屈曲してみてほしい。手関節は肘関節の隣の関節だが、肘関節がロックされるとこちらも力の入ったぎこちない動きとなり、スムーズに動かすことができない。今後はもう一度、肘関節を楽にして腕の力を完全に抜いてだらんとした後、手関節を屈曲してみてほしい。さっきよりも全然スムーズに動くはずである。

肘関節であれ手関節であれ、屈筋群(関節を曲げる筋肉)は屈筋群同士で連携して動くという特徴がある。指を曲げるときは、同時に手首も肘も曲げる方向に動いているのである。人がモノをつまんで観察するために顔の前に持ってくるとき、指関節も手関節も肘関節も屈曲している。(実際のところは、さらに中枢の肩関節と胸鎖関節も屈曲している。)試しに物をつまんで、肘関節だけ伸展しながら顔の前に持ってこようとしてみとほしい。そのような屈曲と伸展の相反するような動きは、全くできないはずである。

 ピアノを弾くときは、指関節だけでなく、手関節と肘関節の力を抜いて軽く屈曲させた状態でなければならない。(意識して「屈曲させる」のではなく、力を抜くと「自然に屈曲した状態」になる。)そして前に説明したとおり、さらに中枢側の肩甲骨と鎖骨も上肢なので、こちら力を抜く必要である。首の付け根から完全に力を抜き、上肢全体をリラックスしてふわっと鍵盤に乗せ、肩でピアノを弾くような感じ、これが解剖学的に最も適切なピアノの弾き方である。

体幹と上肢の関係

 また解剖の図に戻ろう。図は体幹を構成する背骨と肋骨、そしてそれを動かすための小さな筋肉群を示している。背骨の椎体1個ずつの可動性はとても小さいが、これらが深部筋(英語ではインナーマッスルという)の働きで協調して動くことにより、背中を曲げたりねじったりする大きな動作を行うことができる。

子供のピアノのレッスンで、時々「背筋を伸ばして弾きましょう」という指導を見かけることがある。しかしこれは、実際には不可能である。なぜなら、人間の背骨はもともと曲がっているからである。背骨は頚椎は後方に、胸椎は前方に、そして腰椎は再び後方にカーブしている。これを生理的湾曲という。もし人間の背骨が鉄のポールのように真っ直ぐだったら、横から力が加わると簡単にバランスを崩して倒れてしまうだろう。複数の湾曲があるため、外から加わった力をそれぞれ適切なカーブで受け止めることができる。

次の図では、背部のより表層の大きな筋肉を示している。僧帽筋・三角筋といった大きな筋肉の名前をご存知の人もいるかも知れない。そして前胸部には大胸筋・さらにその深部にある小胸筋などがある。これらの筋肉は背骨や肋骨や胸骨から始まり、肩甲骨をはじめとして鎖骨や上腕骨などにつながっている。先に述べたとおり鎖骨や肩甲骨は上肢の骨で、動く骨である。ということは、僧帽筋・三角筋・大胸筋といった背部や前胸部の大きな筋肉は、腕を動かすための筋肉なのである。

松澤トレーナーからストレッチの指導を受ける際、まずは背中のストレッチから始まる。独特の形状のリングを使って数分間ストレッチをするだけで、ピアノを弾く際に視野が広がり、きれいな音が出ることに誰もがみな驚く。先ほど肘関節を例えに説明したとおり、上肢をスムーズに動かすには、より中枢の筋肉からこわばりをとっていく必要がある。リングを使ったストレッチでは、まずは背骨周辺のインナーマッスルや肩甲骨周辺の背中の筋肉のこわばりを取る効果があるのではないかと思う。その後肘や手首などの上肢の先の方へとストレッチを進めていく。今回はあまり触れないが、上半身を安定してリラックスさせるため、次の段階で腰回りや下肢など下半身のストレッチも大切になってくる。

ウェーブストレッチリング(別名「禅リング」)の開発者である、牧直弘先生の講習を受け、実際にお話を伺ったことがある。牧先生はミュージカルやダンスなどを学ばれた後、中国武術や整体などを研究してこのリングを開発されたそうである。実際に話を伺ってみると、いかに熱心に人体について研究されて、このリングの開発に至ったかよく分かった。牧先生は現在このリングの研究結果をもとに  大学のスポーツ科で、博士論文を執筆されている。

先ほどの背骨の例からも分かる通り、人間の体はすべてが曲線で構成されていて、直線や平面は存在しない。リングは体の様々な曲線に合うように作られていて、さらに少し柔らかい素材で作られているので、体重をかけることで変形して体にぴったりフィットするようになる。リング自体の大きさや硬さにもいくつか種類があるので、自分の体に合ったものを見つけることができる。

どのリングが体に合うのか分からない、あるいは同じような健康器具が多くあって、本当に効果があるか分からないといった正直な疑問もあるだろう。自分自身で調べるなら、Amazonなどの大手通販サイトの口コミなどを調べてみても良い。このリングはレビューではそれなりに高評価である。しかしこのようなストレッチ器具の本当の効果は、やはり実際に使用してみないと分からない。ピアノとストレッチのレッスンや講習会は適宜開催されている。またリングについても、そのような機会でレンタルすることもできる。何事もまずはやってみることである。新しいことを試すときはどうしても慎重になりがちだが、迷っているだけでは何も変わらない。

イチロー選手に学ぶ

野球のイチロー選手は、皆さんも御存知だろう。メジャーリーグの最多安打記録、日米プロ野球最多安打記録、最多試合出場記録など素晴らしい記録を樹立した野球選手である。かつて、時のオバマ大統領がイチロー選手と面会した際、欧米人と比較して体格が恵まれたわけではないイチロー選手が、どうして活躍できるのかが疑問で、「なぜ長距離からの送球を速く外すことなく投げられるのか?」と尋ねたそうである。それに対して、イチロー選手は「(必要なのは)柔らかい筋肉です。大きい筋肉は必要ありません。」と答えたそうだ。オバマ大統領は感銘を受け、「まるで禅の心を感じるような答えだった。」と回想した。

禅とスポーツの関係については、今後も研究が必要だと思う。ただ、イチロー選手の体の使い方は、欧米人との体格の差を無理な筋トレで埋めるようなことをせず、自分の体についてよく研究し、それをベストに使えるように努力した結果なのだろう。筋肉を柔らかく使うためには、普段から脱力してストレッチをして、コンディションを維持しておくことが大切である。そしてこのことはアスリートのみならず、楽器演奏者にも通ずることである。

イチロー選手は試合の日は誰よりも速く球場に来て、調整をしていたそうである。それはベテランになってからも同様で、同僚から尊敬を集めていた。また食事について、アメリカはもちろんパンと肉食の文化であるが、イチロー選手は試合前はいつも、奥さんが作ってくれたおにぎりを食べていたそうである。栄養学的には米の方が小麦よりもエネルギー長続きする。でもそういったことではなく、おにぎりが彼にとって一番コンディションを作ることができる食事だったからに違いない。

日本人ピアニストの研究

自分は音大出身でもなく、あくまで趣味のレベルのアマチュアピアニストで、クラシック音楽については最近勉強を始めたところである。クラシック音楽は、近世以降の主にヨーロッパで発展した音楽を指す。このことについては、日本でも随分研究が進んでいると思う。当時の生活様式、それこそ食事に至るまで日本でも詳細に議論されている。

でも、ピアノを弾く日本人についての研究はどれぐらい進んでいるのだろうか。自分は最近、ピアノの鍵盤の高さは自分にとって高すぎるのではないかと感じている。日本人は欧米人と比べて胴長短足なので、鍵盤の高さに椅子を合わせるとペダルまでの距離が遠くなってしまう。脚に余裕があればもう少しペダリングが上手にできるのではないかとも思う。もしお金と時間に余裕があれば、ピアノの脚を切って短くし、自分用に改造すれば良いのかもしれない。しかし残念ながら自分にはその余裕はない。

最近の多くの日本の自動車メーカーは、世界共通で使えるようグローバルな車を作るようになっている。過去から比べると、日本車は全体的に大型化している。トヨタの代表的な車種のクラウンも、かつては5ナンバーサイズであった。現在では広く整備されている道も増えているので、単純に車の運転がしにくくなっているわけではない。

しかしピアノについては、日本のメーカーの製造されたものでも、最初から欧米人用と同じサイズで設計されているように思う。もちろん、日本人用に設計をやり直す費用(全体の響きも変わり根本的な設計変更が必要だろう)や、コンサートで2台並べたときの違和感などを考えると、実際に日本人用のピアノを製造することは現実的ではない。

自分の短足をいつまでも嘆いていても仕方がないが、解決法はある。つまり、高さが変わってもバランスを保って弾けるように、自分の体を上手に使えるようになれば良いのである。背骨周辺の深部筋をほぐして体軸を安定させ、背中と前胸部の筋肉をほぐして上肢のポジショニングを自由にする。さらに腰回りと脚を柔軟にすれば体軸もさらに安定してペダリングも余裕が生まれてくる。

ここまで日本人を中心にして話を進めてきたが、当然ながら体の使い方を改善する効果は日本人に限ったことではなく、もちろん東洋人に限ったことでもない。欧米のピアニストが学んでももちろん効果がある。しかし日本には、独自の歴史に基づいた武道や呼吸法などの文化があり、体の使い方についての知見がある。このような成果に簡単に触れることができるのは、他国では容易に真似できない、日本のピアニストの特権だと思う。

松澤トレーナーの指導を受けてみて

松澤トレーナーからピアニストの体の使い方について指導を受けるようになり、約1年半が経過している。剣道をベースにゴルフも研究した上で作られた松澤トレーナーの理論は、学ぶほど奥が深いと感じている。現役ピアニストも継続的に指導され、現在でもその理論はさらに深まっている。

初めて指導を受けたとき、ピアノ演奏時に体を上手に使うということをそれまでは考えたこともなく、目からウロコの内容だった。そしてこの約1年継続してみて相応の成果が得られているが、新しい課題も見えてきている。自分はストレッチを続けて背中の筋肉についてはかなりほぐれてきたのを実感している。今後脚や下半身の使い方も改善できれば、ペダリングももっと楽になるだろうと思っている。今後の改善点が見えているので、普段の練習から迷うことなく楽しんで弾くことができている。

これを読んでいる人の中には、フォームを変えることで自分の演奏が崩れてしまわないか、心配な人もいるかもしれない。しかしその心配は全く不要である。なぜなら、新しい姿勢があなたにとって負担が大きい場合、体がそれを選択しないからである。体は常に自分にとって自然で楽な姿勢を無意識のうちにとっている。逆を言うと無理な姿勢は体がそれを拒否する。もし数日間試してみてどうしても自分に合わないと感じたら、そこでやめれば良い。しかし自分の経験上、ストレッチをして筋肉をほぐし、関節がスムーズに動くようになって調子を崩した例は、殆ど見たことがない。

人生とは変化の積み重ねである。あなたのピアノ人生で新しく10個の挑戦がある場合、そのうち2~3個の挑戦は必ずあなたに良い変化をもたらすだろう。他の7~8個についても、あなたにとって良いものかどうかは、やってみなければ分からない。あなたが新しい挑戦をはじめて、より充実したピアノライフを送れるようになることを願っている。

2020年 12月 リハビリ病院勤務  医師 Y

タイトルとURLをコピーしました